こんにちは、
AI-am(アイアム)のよっぴーまりんです。
日本のオルタナティブスクールのひとつ、「きのくに子どもの村学園」をご存知ですか?
今回は、この学校法人きのくに子どもの村学園理事長・学園長である 堀 真一郎さん の著書『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』とともに、
サマーヒル・スクール創立者 A.Sニイル、「為すことによって学ぶ」を主張したジョン・デューイ、キルクハニティ・ハウス・スクール創立者のジョン・エッケンヘッドなどの教育思想をベースにした「きのくに子どもの村学園」をご紹介します。
もくじ
「きのくに子どもの村学園」の概要
「きのくに子どもの村学園」は、1992年、和歌山県橋本市で誕生した学校です。
文部科学省に認可された私立学校でありながら、独自の理念・方針にもとづいた教育を実践している、オルタナティブスクールともいえるスクールのひとつです。
「きのくに子どもの村学園」の20年間の歩みが綴られた書籍『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』とともに、この学校が実践している教育についてご紹介します。
「きのくに子どもの村学園」とは?
「学校法人 きのくに子どもの村学園」。この長い名前の学校は1992年、和歌山県の北東の端、橋本市の山中でスタートしました。
戦後はじめて学校法人として認可された自由な学校です。子どもたちの多くが寮生活を送りながら学んでいます。
引用:きのくに子どもの村学園 – 学園について
http://www.kinokuni.ac.jp/nc/html/htdocs/?page_id=50
「感情、知性、人間関係のいずれの面でも自由な子ども」を教育の目標としたこの学校は、92年の開校から、現在は
- きのくに子どもの村小中学校(和歌山県)
- かつやま子どもの村小中学校(福井県)
- 南アルプス子どもの村小中学校(山梨県)
- 北九州子どもの村小中学校(福岡県)
- ながさき東そのぎ小中学校(長崎県)
- きのくに国際高等専修学校(和歌山県)
と全国6ヶ所で開校されており、子どもたちは通学または寮生活を送りながら通っています。
多くのオルタナティブスクール同様、テストや宿題はなく、独自のカリキュラムによって運営されています。
「自由な子どもへの成長を援助するという目的を掲げ、世界でいちばん自由な学校、つまりサマーヒルのニイルと、知性の自由を最も大事にしたジョン・デューイの思想と実践に学び、さらに両者の統合を試みたジョン・エッケンヘッドの学校を参考にして、素直に、そして突き詰めて考えた」
「きのくに子どもの村学園」の方針
私たちは、どの子にも、感情、知性、人間関係のいずれの面でも自由な子どもに育ってほしいと願っています。そのため、次の3つの点を大切に考えています。
■自己決定の原則
子どもがいろいろなことを決めます。
学習計画や行事の立案が子どもと大人の話し合いで決まります。自分の入るクラスが選べます。クラスミーティング、寮のミーティング、そして全校集会など、話し合いのとても多い学校です。■個性化の原則
一人ひとりの違いや興味が大事にされます。
個性や個人差を尊重します。年齢が同じだからといって、同じことを同じ方法で、同じペースで、同じ答えに向かって学習するのではありません。ひろい範囲のさまざまな学習や活動が選べます。■体験学習の原則
直接体験や実際生活が学習の中心になっています。
本やドリルの勉強よりも、実際に作ったり調べたりする活動が重視され、「プロジェクト」と呼ばれて時間割の半分を占めています。クラスはプロジェクトのテーマによってつくられ、子どもは好きなところを選んで所属します。
引用:きのくに子どもの村学園 – 学園の基本方針
http://www.kinokuni.ac.jp/nc/html/htdocs/?page_id=46
「自由な子どもへの成長を援助するという目的を掲げ、世界でいちばん自由な学校、つまりサマーヒルのニイルと、知性の自由を最も大事にしたジョン・デューイの思想と実践に学び、さらに両者の統合を試みたジョン・エッケンヘッドの学校を参考にして、素直に、そして突き詰めて考えた」(p.171)と、
学園長の掘さんは書かれています。
きのくに子どもの村学園が目指す学び、学ぶこと、学びかた
きのくに子どもの村学園の小学校の時間割は、
[aside type=”boader”]
- プロジェクト
- 基礎学習
- 自由選択
- 全校ミーティング
[/aside]
で構成されています。
いわゆる国語と算数を、きのくに子どもの村学園では「ことば」「かず」として週7時間学びます。
そして、きのくに子どもの村学園の学びの中心は、週14時間を費やす「プロジェクト」です。
プロジェクト
プロジェクトは、私たちの学園の学習活動の中核で、創造的に考える態度と能力、そして多方面の学習をねらいとしている。子どもたちは、大きな事業を完成させた喜びと同時に、自分が何か新しいことを知り、今までになかった力が身についたと感じる。この実感こそ、子どもたちが学校で感じるいちばん深い楽しさといえるだろう。
引用:『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』p.22
方針における3つの原則のうち、「体験学習の原則」の実践にあたるのが「プロジェクト」です。
きのくに子どもの村学園はクラスのある学校ですが、従来の一条校のように年齢による区別ではなく、この「プロジェクト」のテーマをもとにクラスがつくられていて、子どもたちは自分で選んで参加することができます。
プロジェクトは、全国いずれの「子どもの村」でも同じような構成ですが、名称は各校によって少し違っています。
たとえば南アルプス子どもの村小学校の場合は、次のとおりです。
[box class=”yellow_box” title=”南アルプス子どもの村小学校のプロジェクト” type=”simple”]「クラフトセンター」(建築、木工など)…「ものづくりをとおして自分たちの暮らしを考える」
「むかしたんけんくらぶ」(布、養蚕など)…「昔の暮らしを探求し、今の暮らしをさらに楽しく豊かにする」
「おいしいものをつくる会」(料理、農業など)…「料理を思う存分に楽しみ、人のくらしを考える」
「劇団みなみ座」(劇、表現など)…「体全体で自己を表現し、気持ちを解放させる」
「アート&クラフト」(おもちゃづくり・木工・園芸など)…「ものづくりを思いきり楽しみ、身のまわりをゆたかにする」
引用:南アルプス子どもの村小学校・中学校 – 授業について
http://www.kinokuni.ac.jp/nc_alps/html/htdocs/?page_id=18
[/box]
木工、庭仕事、家づくりなどが好きな子が工務店を選んで入ってくる。米づくりや畑仕事の好きな子は「ファーム」を選ぶ。一人ひとりが自分のクラスを選べるので、人数も男女比も、学年のバランスもみな違ってくる。
引用:『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』p.15
子どもたちがつくるジャンボすべり台
『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』には、広場に大きなすべり台を作ったエピソードも綴られています。
子どもと大人がそれぞれ一票をもつ話し合いを経て、崖の斜面にすべり台を設置することになり、「工務店」クラスの子どもたちがこれを作っていくのですが、そう簡単には進みません。
どこに、どんな形で作るか?
カーブしている崖の角度にどう合わせるか?
崖の土のかたい部分をどう削るか?
基礎部分に流れてくる雨水をどうするか?
などなど、計画段階ではもちろん、進行中にも判明する大小さまざまな問題を、話し合いによって解決していくようすが描かれています。
むずかしい作業に向き合いながら、2、3ヶ月をかけて25メートル超のすべり台が完成しました。
のどもと過ぎれば熱さを忘れるという。しかし工務店クラスの子どもたちは、すべり台が出来上がったから苦労を忘れたのではない。彼らは「大変だけれど楽しい」「大変なことほど、できたらうれしい」と実感したのだ。中には出来上がりをイメージして、現在の苦労を楽しんでいるように見える子さえある。
引用:『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』p.19
プロジェクトは、子どもの発達の各側面(身体、感情、知性、人間関係)を総合的に発達させる。たんに各教科の内容を統合するというのではなく、子どもの成長の全体をまとめてうながそうとする。うんと頭をつかい、感情面を解放し、仲間と心と力を合わせる喜びをたっぷり味わう。これがプロジェクトの真髄だ。
引用:『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』p.178-179
寮生活をする子どもたち
「子どもの村」の特徴のひとつは、寮がある学校だということ。
学園長・理事長の堀真一郎さんが1984年に発足した「新しい学校をつくる会」は、イギリスの教育家、A・S・ニイルが創立した寄宿学校「サマーヒル・スクール」のような自由学校を日本にもつくりたい、という思いからはじまったものでした。
全寮制であるサマーヒルとは違い、通学も可能な「子どもの村」ですが、寮に入っている子どもたちのほうが多いとのこと。
寮生には2パターンがあり、週末だけ帰宅する子どもたち、または遠方のため一ヶ月に一度は帰宅する子どもたち、に分かれています。
本によると、和歌山県の「きのくに子どもの村小中学校」、福井県の「かつやま子どもの村小中学校」の場合は、通学生が25%、週末帰宅生が60%、長期滞在生が15%。
山梨県の「南アルプス子どもの村小学校・中学校」、福岡県の「北九州子どもの村小学校・中学校」には長期滞在の子どもはおらず、きのくに・かつやまに比べると、通学生が多いんだそうです。
『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』では、寮生活を送る子どもの見解について、次のように書かれています。
二四時間いっしょに暮らしているので、どんなに楽しくてもさまざまなトラブルやもめごとが生じる。仲のいい友だちとの関係が微妙になったりもする。子どもたちは、そういう時の気持ちの処理や具体的な解決法を自然に学んでいく。子どもであれ大人であれ、感覚的に合わないとか、相性がよくないとかいう相手はいるものだが、そういう相手との適度な距離の取り方などは、寮の子のほうが通学の子よりもずっと上手に身に付けていく。あえてひとことでいえば、通学の子よりも寮の子のほうが自立性のある子へと育つ可能性が高い。
引用:『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』p.85
また、学校をつくりたい方へ向けた章では、「とにかく寮に入れたい、預かってほしい」というタイプの保護者には注意をする……といった記述もありました。
親、子ともにどんな性格・気質か、環境、関係はどうか、どれくらい学校が好きか……などなどによっても寮の是非は分かれるところだとは思いますが、こうした選択肢があるのはいいことですし、
「ただたんに遠くからの子どもを預かってお世話するだけの施設ではない」(p.85)など、しっかりしたスタンスが確立されていると、信頼感がありますね。
自由な学校には話し合いが欠かせない
現行の一条校とは異なった独自の理念・方針をとるオルタナティブスクールには、大人・子どもが対等に話し合うことを大切にしている学校が多く見られます。
オヤトコ発信所のよっぴー、まりんがスタッフ/メンバーとして育ったデモクラティックスクール・サドベリースクール、
今回の「きのくに子どもの村学園」もまた、学校生活に「話し合い」があふれている学校です。
子どもの村では話し合いがとても多い。週一回の全校集会のほか、緊急のミーティング、クラス・ミーティング、それに寮のミーティングなどはしょっちゅう開かれるし、時には走っているマイクロバスの中で話し合いが始まることもある。中学校だけのミーティングもあれば、寮の部屋ごとのこともある。
自由な学校とは、子どもがさまざまなことを決める学校だ。子どもが決めるには、話し合いが欠かせない。教師がすべてを決める学校では話し合いは必要がない。必要がないどころか、むしろ教師による管理の妨げになる。子どもたちの自由とミーティングの頻度は比例するのだ。
引用:『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』p.58
ほとんどの大人は、話し合いはもちろん、「子どもたちと対等に話し合う」という経験もあまりないので、大人がどんなふうに関わるのか、あまり想像がつかないかもしれません。
これはオルタナティブスクールとひと口に言っても、各スクールによって違いのあるところです。また、見た目には同じことをしていても、そこに含まれる気持ちには違いがあるということもあります。
きのくに子どもの村学園では、ミーティングや話し合いの際の大人の姿勢について、こんなふうに書かれています。
子どもの村の大人たちは、ミーティングでは子どもにすべてを任せて見守るだけだろうか。発言をできるだけ控えるだろうか。採決には加わらないのだろうか。答えはすべてノーである。大人たちは、子どもが積極的にミーティングに参加し、話し合いを重ね、しかも「かしこい決定」に至るように、さりげなく細心の注意を払っている。
(中略)
ミーティングの話題は楽しいことばかりではない。子どもの間のもめごとや「物がなくなった」といったイヤな議題も少なくない。そしてイヤな議題ほど長引きやすい。子どもの村の大人は「楽しいミーティングは長く、イヤなミーティングは手短に」という原則を心得ておこう。
引用:『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』p.58-59
この学園の教育目標は「自由な子どもへの成長を支援する」ことであり、そのために大人は「子どもたちの心をひきつける環境や活動をたっぷり用意する、誘導する教育」としての指導をする、という記述とも共通する姿勢ですね。
学校をつくりたい方に向けたノウハウも
全4章で構成されている『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』の最後は、学校をつくりたい人に向けたメッセージになっています。
自由な学校づくりに必要な素質、注意点、資金、ノウハウ、etc…。
お金がないから作れない、人脈がないからできない、のではなく、その資金を実際にどう調達したか? 行政とどう関係を築くか? などなど、
当時と現在では異なる部分もありますが、しっかりと学校をつくっていきたい方には、「気持ち」「想い」だけではない参考になることが多く書かれています。
学校づくりにはむずかしい問題が続く。準備段階での青写真づくり、資金集め、広報活動、人間関係、役所との折衝など、地道で気の長い仕事である。開校後も将来計画、日々の教育計画、個々の子どもの把握、親やメディアとのお付き合い、お金の心配など、落ち込んだり腹を立てたりしてはいられない。現状を冷静に見きわめ、綿密に広い意味の計算をしながら、じっくり、ボチボチ行くのがいい。
引用:『きのくに子どもの村の教育―体験学習中心の自由学校の20年』p.243
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[box class=”green_box” title=”きのくに子どもの村学園” type=”simple”]
きのくに子どもの村(学校法人きのくに子どもの村学園)
http://www.kinokuni.ac.jp/nc/html/htdocs/index.php
所在地:〒648−0035 和歌山県橋本市彦谷51
電話番号:0736-33-3370
Email:info@kinokuni.ac.jp
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多様な学び 〜教育はもっと多様であっていい〜
オルタナティブスクールに興味のある方はもちろん、公の学校が合わない人、満足していない人……。そんな方たちにはぜひさまざまな選択肢を知っていてほしいし、
自分は公の学校が合っているし満足しているという方もまた、多様な学びを知っていくことで、これらの教育を選びたい人たちが選びやすい世の中をつくっていくことができると思います。
子どもたちが自分に合う学び場で育っていけることが、わたしたちの望みです。
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