日本のオルタナティブスクールのひとつ、「シュタイナー学校」をご存知ですか?
オーストリア出身のルドルフ・シュタイナーが提唱・創立した「自由ヴァルドルフ学校」の教育は、世界中へ広まりました。
今回は、全国のシュタイナー学校のひとつ「京田辺シュタイナー学校」の編著『 親と先生でつくる学校 – 京田辺シュタイナー学校 12年間の学び 』とともに、現在、日本でもシュタイナー教育を実践している「シュタイナー学校」をご紹介します。
もくじ
「シュタイナー学校」の概要
「シュタイナー学校」のはじまりは、1919年、終戦間もないドイツで誕生した「自由ヴァルドルフ学校」。
その後、1987年には日本初のシュタイナー学校「東京シュタイナーシューレ(現・シュタイナー学園)」が誕生し、子どものための教育を求めるいち保護者たちによって、全国への広がりを見せていきました。
独自の理念・方針にもとづいた教育を実践している、オルタナティブスクールのひとつです。
全国にあるシュタイナー学校のひとつ、「京田辺シュタイナー学校」で日々を過ごす子どもたち、そして開校15年(2015年当時)までの歩みが綴られた書籍『 親と先生でつくる学校 – 京田辺シュタイナー学校 12年間の学び 』(編・著/NPO法人京田辺シュタイナー学校)とともに、この学校が実践している教育についてご紹介します。
「シュタイナー学校」とは?
どのような人間に育てたいか
内への深まりと 外への広がり
世界と出会い、学ぶことを通して徐々に自分にも目を向ける。やがて世界を広げていくことで自分の内をも深めていく。こうして自らの歩むべき道を選び取り、人生を切り拓いていく力を培う。その上で、人や社会とつながり、新しい未来を創造していく人となる。大地にしっかりと立ち 両手を天の高みへ
自らの足で立ち生きてゆく礎となる力を育てる。同時に、目に見える現実世界の背後にある真理や美を感じ、個人の生を超えて、時代を超えた視野を持つ豊かな精神を育む。大地と天の間にしっかりと立ち、真理と美に結びつく人となる。
自ら考え、自ら感じ、自らの意志で行動できる人、
どんな時代でも自分らしく歩んでいける
「生きる力」を持った人を育てます。学校法人シュタイナー学園 > シュタイナー学園について
https://www.steiner.ed.jp/about/
「自由への教育」を行うシュタイナー教育を実践する日本の全日制学校は、2020年現在、以下の7校となっています(日本シュタイナー学校協会・正会員校)。
日本のシュタイナー学校
- 北海道シュタイナー学園いずみの学校
- 東京賢治シュタイナー学校
- シュタイナー学園
- 横浜シュタイナー学園
- 愛知シュタイナー学園
- 京田辺シュタイナー学校
- 福岡シュタイナー学園
また、幼児教育を行う「シュタイナー幼稚園」も全国各地にあります(参考:日本シュタイナー幼児教育協会・共同体会員一覧)。
他のオルタナティブスクール同様、テストや点数による評価はなく、独自のカリキュラムによって運営されています。
シュタイナー学校ではテストも成績表もありません。自分で学んだことを確認するために、あるいは宿題の手法としてテストのようなプリントを使うことはありますが、子どもの学力や能力を測るためのテストや、学力や能力の到達度を判断する成績表は必要なく、点数による評価や順位付けはしません。シュタイナー学校では、目に見えないものの力も大切にしたいと考えているからです。
(中略)
ただし、高学年、高等部になると、自分の到達の度合いを確かめていきたいという気持ちが芽生えてきますので、テストのような形を使うことが増えてきます。
「シュタイナー学校」の方針
初等中等部の授業において
● 子どもの成長段階に即した(シュタイナー教育のカリキュラムにそった)授業により、体と心に栄養を与え、生きる力の源を育みます。
● リズムをもった繰り返しにより、毎日をしっかりと生きていけるような強い意志を育みます。
● 芸術に満たされた授業により、生き生きとした豊かな感情を育みます。
● 強い意志と豊かな感情に支えられた想像力/創造力の育成により思考力の萌芽を育みます。
● 学びへの意欲を培い、高等部での学習につながる基礎学力や知識を高めます。
● 身近な所から徐々に遠く広く視野を広げ、世界と結びつく力を育みます。
● 心を開いて出会っていく学びを通して、自然や社会など世界全体のつながりを感じる力を育みます。高等部の授業において
● 宇宙や世界がどれほど調和や美しさに満ちているか、どのような真理や法則に貫かれているのかを感じ取り、驚きや喜びをもって学びます。
● これまでの8年間に育んだ身体や感情を基礎として「生き生きとした、その人とともに育ちゆく思考」を育みます。
● 学校での学びを現実社会に繋げるべく、様々なプロジェクト学習や実習を通じて教室の外に出て、多くの「生きた学び」を体験します。
● 各教科での学びでは、ディスカッションやプレゼンテーション、レポートを重視し、自ら主体的に学んでいく姿勢を育みます。
● 現実社会に踏み出していくために必要な基礎学力や知識を身につけていくことを、意志を持って自ら進めていく力を養います。
● 生徒会やクラス活動等での様々な話し合いを通じて、人の意見に耳を傾け、自分の意見と織り合わせていく姿勢と技術を身につけます。
● ともに学び、ともに喜ぶ多くの体験を通じて、世界への信頼、自分自身への信頼を確かなものにしていきます。
● 12年の学びの集大成として様々な力を統合させ、卒業演劇・卒業プロジェクトを成し遂げます。京田辺シュタイナー学校 > 教育ビジョン
https://ktsg.jp/school/vision/
シュタイナー教育では、子どもの成長・発達を7年ごとに考え、各時期に応じた教育を行っています。
シュタイナー学校が目指す学び、学ぶこと、学びかた
シュタイナー学校の学びには、
- 2年間の小中高一貫教育
- 子どもの発達を7年周期でとらえるカリキュラム
- 感覚や体験にもとづく、芸術的な学習
- 8年間一貫の担任制
などの特徴があります。
子どもの発達を7年周期でとらえるカリキュラム
シュタイナー教育では、人間の成長を7年周期で捉えます。
0歳から7歳の幼児期、7歳から14歳の児童期、14歳から21歳の青年期……と、発達に応じた長期的な、独自のカリキュラムが組まれています。
幼児期は体がもっとも大きく成長します。人生の最初の7年間は体の成長が健全であるように生活を整えます。知的な頭での学習はもっと大きくなってからで十分です。シュタイナー教育においては、人間の成長段階をとらえて、ふさわしい時期にふさわしい教育を行うよう努めます。
シュタイナー教育において子どもたちは、世界への信頼を習得し、やがて9歳ごろになると、「9歳の危機」を迎えると『 親と先生でつくる学校 – 京田辺シュタイナー学校 12年間の学び 』には書かれています。
それまでは守られていて何もこわいものはなかった、まわりはすべて善きもので、すべての動物は友達だったのに、ある日突然、自分はひとりであるという気づきが9歳前後の子どもたちに訪れます。自分を守ってくれていた世界からも追い出されてしまう。それは子どもにとってひどく危機的な状況を生むといわれています。そこで、この孤独で不安な時期は「9歳の危機」と呼ばれるのです。
(中略)
自分という存在が、世界から切り離されていると感じるということは、自分と世界との間に距離を持つようになるということでもあります。距離を持つことによって、子どもたちは初めて世界を客観的にみる目を持ち始めます。
その後も書籍では、
「それまで無意識であった自分の「感情」を認識し、客観的に把握できるようになる」、「思考を整理し筋道を立てて考えていく」、
「自分の内面に目を向け、自分の人生というものについて具体的に考え始め」、「おのおのの中に「自分自身への目覚め」とともに、「全体への意識」が生まれていく」
…といった具合に、各学年の子どもたちの成長・発達のようすが説明されています。
こうした子どもたちの段階に基づいたカリキュラムですが、いずれも、知識優先ではなく精神の充実が大切にされていることが伺えます。
感覚や体験にもとづく、芸術的な学習
国語、算数、理科、社会といった主要教科は、「エポック授業」という形で行われます。
エポック授業は、毎朝100分ほど行われ、2週間〜4週間ひとつの科目だけを学びます。「次の時間の科目は、その次は…」など、子どもの意識を分散させないことで、集中して学ぶことができるとのこと。
集中的に学んだあとは、またほかの科目を集中的に学びますが、学んだ内容について子どもたちは忘れるのではなく内面に蓄積され、理解が深まっていくのだといいます。
また、シュタイナー教育では、「フォルメン線描」という画法を用いた学習や、「オイリュトミー」という身体芸術の専科などがありますが、
主要科目においても絵画や詩、踊り、歌、寓話などが交えられ、芸術性が重視されているのが特徴的です。
前半の40分ほどは様々なことが行われます。遊びのような運動を通じて体を動かすだけでなく、心と体の成長のためにそれぞれの時期に必要な動きが含まれたリズム体操のようなものや、笛や歌の合奏や輪唱、九九の繰り返しや、以前に習った漢字を腕全体をつかって宙に書いてみることを取り入れる場合もあります。
たとえば一年生の国語や算数の学びかたについて、こんな例が書かれています。
たとえば、「木」という文字を学ぶ時には、木がどんなふうに生え、見あげた時にどのように輝いて見えるか、風が吹いたらどうであるかといったことから入るのです。子どもたちが自分の中に木をありありとイメージできたら、次にはそれを絵に描いてみます。その絵の中から「木」という文字を浮かび上がらせます。
あるクラスでは1という数を習う時に、子どもたちが一つの小さな種を描きました。一つを表す大きな全体として、1という質を伝えたいからです。別のクラスでは「私」を描きました。たくさんの人間がいても「私」という存在は一つです。そして、「私」は分けようのない一つの全体なのだという意味を込めたのです。
(中略)
1年生は、クラスの中でいっしょに詩を唱え、いっしょに一つのメロディを歌い、1から順に数えながら、3拍目を強調するリズムや4拍目を強調するリズムを唱えます。そして、そのリズムは掛算の九九の導入になっています。
また、国語でも、みんなで唱えたり、みんなで歌ったりする中から、自然と美しいメロディを感じたり、美しい日本語に触れるような授業の進め方をしています。
『親と先生でつくる学校 – 京田辺シュタイナー学校 12年間の学び 』p.45-47
シュタイナー学校には、このように綿密なカリキュラム・授業があります。
オルタナティブスクールというと子どもの自由を軸にしたスクールも多いのですが、シュタイナー学校はあくまでも「自由への教育」。
「居場所」や「受け皿」といった感覚ではなく、現行の一条校とは異なったひとつの教育だということが、はっきりと見てとれます。
親代わりとしての先生
シュタイナー学校では、8年間ないし9年間、一貫して同じ先生が担任をつとめられています。
緊張の面持ちで入学してくる子どもたちに対して、この本では、「京田辺シュタイナー学校の担任教師は、1年生の子どもたちにとって学校にいる間は親代わりのような存在でありたい」と書かれていました。
そのことについて、本には以下のように書かれてあるのですが、これはまさに、家庭のなかで親が子どもに向けていきたいまなざし、おもいやりそのものですよね。
手足に傷を作っては、「先生、痛いよ」と絆創膏を貼って欲しがる子もいます。たいしたことがなくてもきちんとその痛みを受け止めて、ていねいに「治療」をします。子ども同士がけんかになれば、お互いの言い分をとことん聞きます。
(中略)
子どもたちの行動の奥には、一つ一つにその子なりの「気持ち」があるのです。小さな子どもたちは自分でうまくそれを表現し伝えることはできません。ですから教師は自分の価値観や道徳による判断をすることなく、目には見えないものを見ようと努力しなければなりません。
『親と先生でつくる学校 – 京田辺シュタイナー学校 12年間の学び 』p.30-31
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日本にあるシュタイナー学校
- 北海道シュタイナー学園いずみの学校(北海道豊浦町)
- 東京賢治シュタイナー学校(東京都立川市)
- シュタイナー学園(神奈川県相模原市)
- 横浜シュタイナー学園(神奈川県横浜市)
- 愛知シュタイナー学園(愛知県日進市)
- 京田辺シュタイナー学校(京都府京田辺市)
- 福岡シュタイナー学園(福岡県福岡市)
多様な学び 〜教育はもっと多様であっていい〜
オルタナティブスクールに興味のある方はもちろん、公の学校が合わない人、満足していない人……。そんな方たちにはぜひさまざまな選択肢を知っていてほしいし、
自分は公の学校が合っているし満足しているという方もまた、多様な学びを知っていくことで、これらの教育を選びたい人たちが選びやすい世の中をつくっていくことができると思います。
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