こんにちは、
AI-am(アイアム)のよっぴーまりんです。
日本でオルタナティブ教育を実践する学校のひとつ、「大日向小学校」をご存知ですか?
今回は、この学校の創立までが綴られた書籍『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』とともに、
認可された一条校でありながら、日本ではじめてイエナプランスクールとしても認定された「大日向小学校」をご紹介します。
もくじ
「大日向小学校」の概要
「大日向小学校」は、2019年4月、長野県南佐久郡佐久穂町に誕生した学校です。
文部科学省に認可された私立学校 = 一条校でありながら、オランダで発展したイエナプランの理念・方針にもとづいた教育を実践している、オルタナティブスクールともいえるスクールのひとつです。
「大日向小学校」の学校法人・茂来学園の代表理事を務められている 中川綾さん が、学校の設立、開校までを綴られた書籍『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』とともに、「大日向小学校」が実践している教育についてご紹介します。
「大日向小学校」とは?
大日向小学校は、「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる。」という建学の精神のもと、2019年4月に長野県南佐久郡佐久穂町に開校した、日本で初めてのイエナプランスクール認定校です。
引用:学校法人 茂来学園 大日向小学校
https://www.jenaplanschool.ac.jp/
大日向小学校は、一条校(学校教育法第一条に定められている学校の総称)でありながら、オルタナティブ教育のひとつであるイエナプラン教育を実践しています。
日本ではじめて、イエナプランスクールとしての認定(日本イエナプラン教育協会による)も受けました。
「自立する」「共に生きる」「世界に目を向ける」の3つを大切にする大日向小学校。
数値やランクによる子どもへの評価はなく、文章による評価が行われています。
イエナプランでは、「数字で人を評価する」ということに対するアンチテーゼもこめて、評価はすべて言葉(文章)で表現するということがうたわれています。
引用:『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』p.194
「大日向小学校」の教育方針
イエナプランは、ドイツの教育学者ペーター・ペーターゼンが1924年に創始した学校教育モデルです。
その後、この教育はオランダへと広がり、発祥国ドイツを上回る勢いで発展、普及しました。
日本ではまだ数少ない、イエナプランを実践する大日向小学校の理念・方針は、イエナプランに則ったものとなっています。
8つのミニマム条件
- インクルーシブに基づく教育
- 民主的で秩序ある学校
- 対話の重視
- 学校は経済、宗教、政治の何らかの利益に関わる道具になってはならない
- 学校の真正性
- 協同的で自律的秩序に基づく自由
- 批判的思考を育てる
- 創造の重視
20の原則
人間について
- どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も一人一人がほかの人や物によっては取り換えることのできない、かけがえのない価値を持っています。
- どの人も自分らしく成長していく権利を持っています。自分らしく成長する、というのは、次のようなことを前提にしています。つまり、誰からも影響を受けずに独立していること、自分自身で自分の頭を使ってものごとについて判断する気持ちを持てること、創造的な態度、人と人との関係について正しいものを求めようとする姿勢です。自分らしく成長して行く権利は、人種や国籍、性別、(同性愛であるとか異性愛であるなどの)その人が持っている性的な傾向、生れついた社会的な背景、宗教や信条、または、何らかの障害を持っているかどうかなどによって絶対に左右されるものであってはなりません。
- どの人も自分らしく成長するためには、次のようなものと、その人だけにしかない特別の関係を持っています。つまり、ほかの人々との関係、自然や文化について実際に感じたり触れたりすることのできるものとの関係、また、感じたり触れたりすることはできないけれども現実であると認めるものとの関係です。
- どの人も、いつも、その人だけに独特のひとまとまりの人格を持った人間として受け入れられ、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。
- どの人も文化の担い手として、また、文化の改革者として受け入れられ、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。
社会について
- わたしたちはみな、それぞれの人がもっている、かけがえのない価値を尊重しあう社会を作っていかなくてはなりません。
- わたしたちはみな、それぞれの人の固有の性質(アイデンティティ)を伸ばすための場や、そのための刺激が与えられるような社会をつくっていかなくてはなりません。
- わたしたちはみな、公正と平和と建設性を高めるという立場から、人と人との間の違いやそれぞれの人が成長したり変化したりしていくことを、受け入れる社会をつくっていかなくてはなりません。
- わたしたちはみな、地球と世界とを大事にし、また、注意深く守っていく社会を作っていかなくてはなりません。
- わたしたちはみな、自然の恵みや文化の恵みを、未来に生きる人たちのために、責任を持って使うような社会を作っていかなくてはなりません。
学校について
- 学びの場(学校)とは、そこにかかわっている人たちすべてにとって、独立した、しかも共同して作る組織です。学びの場(学校)は、社会からの影響も受けますが、それと同時に、社会に対しても影響を与えるものです。
- 学びの場(学校)で働く大人たちは、1から10までの原則を子どもたちの学びの出発点として仕事をします。
- 学びの場(学校)で教えられる教育の内容は、子どもたちが実際に生きている暮らしの世界と、(知識や感情を通じて得られる)経験の世界とから、そしてまた、<人々>と<社会>の発展にとって大切な手段であると考えられる、私たちの社会が持っている大切な文化の恵みの中から引き出されます。
- 学びの場(学校)では、教育活動は、教育学的によく考えられた道具を用いて、教育学的によく考えられた環境を用意したうえで行います。
- 学びの場(学校)では、教育活動は、対話・遊び・仕事(学習)・催しという4つの基本的な活動が、交互にリズミカルにあらわれるという形で行います。
- 学びの場(学校)では、子どもたちがお互いに学びあったり助け合ったりすることができるように、年齢や発達の程度の違いのある子どもたちを慎重に検討して組み合わせたグループを作ります。
- 学びの場(学校)では、子どもが一人でやれる遊びや学習と、グループリーダー(担任教員)が指示したり指導したりする学習とがお互いに補いあうように交互に行われます。グループリーダー(担任教員)が指示したり指導したりする学習は、特に、レベルの向上を目的としています。一人でやる学習でも、グループリーダー(担任教員)から指示や指導を受けて行う学習でも、何よりも、子ども自身の学びへの意欲が重要な役割を果たします。
- 学びの場(学校)では、学習の基本である、経験すること、発見すること、探究することなどとともに、ワールドオリエンテーションという活動が中心的な位置を占めます。
- 学びの場(学校)では、子どもの行動や成績について評価をする時には、できるだけ、それぞれの子どもの成長の過程がどうであるかという観点から、また、それぞれの子ども自身と話し合いをするという形で行われます。
- 学びの場(学校)では、何かを変えたりより良いものにしたりする、というのは、常日頃からいつでも続けて行わなければならないことです。そのためには、実際にやってみるということと、それについてよく考えてみることとを、いつも交互に繰り返すという態度を持っていなくてはなりません。
引用:『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』p.42-48
大日向小学校が目指す学び、学ぶこと、学びかた
大日向小学校およびイエナプラン教育の学びには、
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- ワールドオリエンテーション(協働学習・総合学習)
- ブロックアワー(自立学習・基礎学習)
- サークル対話
- 基本活動を「対話」「遊び」「仕事(学習)」「催し」に分類し、ローテーションする時間割
- 小学校1年生から3年生、4年生から6年生に分けた、異年齢ミックスなグループ活動
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などの特徴があります。
「子どもたちの問いから始める」ワールドオリエンテーション
大日向小学校は、イエナプラン教育の学習法を、日本の学習指導要領に則って実践されています。『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』では、その点の工夫についても触れられていました。
たとえば「ワールドオリエンテーション」は、教科を横断する形で総合学習を行う、イエナプランの核ともいわれる活動です。
大日向小学校では、1週間のうち、午後の7時間をワールドオリエンテーションの時間として設定しました。つまり、年間で35週×7時間で、7つのテーマのプロジェクトを実施していきます。テーマによって週数は違うため、3週間で終わるものもあれば、7週間続く場合もあります。
(中略)
ワールドオリエンテーションでは、「ヤンセンの自転車」と言われる学びのサイクルに則って、「刺激→問いかけ→計画→経験・発見・探究→発表→記録・保管→中核目標・学習経験の確認」の流れで進められます。準備段階から、国語や算数、理科、社会、図工、音楽、家庭科など、あらゆる教科単元とどのようにつなげることができるか整理していきました。
引用:『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』p.177-178
イエナプランは「自分自身の関心から生まれる問いに基づき自発的に学ぶこと」を大切にしているため、ここでは、「教科書の単元からスタートしないようにすること」に注意したとも書かれています。
「子どもたちの問いから始める」ことが重要で、そうでないと子どもたちにとって、それは「やらされている」ものになってしまう。
けれど教育のねらいとして、「子どもたちの学んでほしいこと」に子どもたちが興味関心を持って触れられるように、つくりこみすぎない余白も必要……と、カリキュラムづくりの工夫が描かれています。
本にも書かれてあるとおり、このような工夫は、現行の公教育にとっても参考になるかもしれません。
異年齢ミックスのクラス編成
イエナプランではたいてい、3学年(4〜6歳、6〜9歳、9〜12歳)に分けてクラスが編成されます。
大日向小学校の場合は、学習指導要領との兼ね合いもあり、学級は従来と同じく1〜6年。
ただし、1年生〜3年生、4年生〜6年生の2学年に分けたグループ活動を盛んに行っているとのことです。
学校を「社会に出る前の練習の場である」と考えるなら、学校の中にも、社会のあり様と近い環境をつくるべきだし、(中略)異年齢での活動は、「私たちは一人ひとり違うのだ」ということを、より分かりやすくする環境をつくります。そして、違うからこそ、助け助けられる関係がつくられるということも容易に学ぶことができます。
(中略)
とすれば、私たちはみな違う存在であり、だからこそ互いに助け合う関係をつくれるとよいということを体感できる環境があれば、異年齢でなくてもよいとも言えるのではないでしょうか。
(中略)
同学年、同年齢であったとしても、私たちは一人ひとり違う、一人ひとり価値のある、大切にされるべき存在なことには変わりはないのです。それは、揺るぎの無い事実なのであって、そこさえ私たちが理解し合えていれば、「異年齢学級」にこだわり過ぎることはありません。
引用:『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』p.186-187
イエナプランスクールでありながら、一条校であるということ
イエナプラン教育でありながら一条校でもあるという、日本ではまだ新しい試みに挑戦している大日向小学校。
海外発祥のオルタナティブ教育についてよく言われるのが、「海外ではできても、日本では難しい」というもの。イエナプランも例外ではなかったといいます。
日本イエナプラン教育協会では、イエナプランは日本の公教育の中に「特異なもの」としてではなく、当たり前に存在することができると考えていました。また、一条校としてイエナプランスクールが設立されることで、イエナプランは日本の公教育のルールを変えなくても実践できる、ということを証明することにもなると考えていました。
引用:『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』p.13-14
私たちに必要なのは、よいと思う教育の形を考え、実践し、子どもに届けること、広めていくこと。そして、その活動が少しでも日本の公教育に影響を及ぼしていけるようになること。
引用:『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』p.29
学校設立までを綴った『 あたらしいしょうがっこうのつくりかた 』には、開校までの奔走、また、これからも目の前の子どもたちと試行錯誤していこう、という姿が見られます。
これから学校をつくりたいと思われている方にも、とても参考になる内容だと思います。
「メソッドではなくコンセプト」といわれるイエナプラン。この教育が認可された「公教育」のなかで行われているということに意義がありますね。
多様な学びを実現するために、現在はまだ公的に認可されてないオルタナティブスクールのように外側から働きかけること、大日向小学校やきのくに子どもの村学園のように内側から働きかけること、どちらも大切だと感じます。
また、学校法人茂来学園は、小学校だけでなく 中学校も、2022年度の開校をめざして準備されている とのことです。
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学校法人茂来学園 大日向小学校
https://www.jenaplanschool.ac.jp/
所在地:〒384-0502 長野県南佐久郡佐久穂町大日向1110
電話番号:0267-81-2345
お問い合わせ:https://www.jenaplanschool.ac.jp/contact/
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多様な学び 〜教育はもっと多様であっていい〜
オルタナティブスクールに興味のある方はもちろん、公の学校が合わない人、満足していない人……。そんな方たちにはぜひさまざまな選択肢を知っていてほしいし、
自分は公の学校が合っているし満足しているという方もまた、多様な学びを知っていくことで、これらの教育を選びたい人たちが選びやすい世の中をつくっていくことができると思います。
子どもたちが自分に合う学び場で育っていけることが、わたしたちの望みです。
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